2024/12/02 18:30
「サンホラはね、沼だよ」
約10年前、大学生活をともにする友人が、筆者に何気なく口にした言葉である。大変恐縮ながら、つい先日までサンホラ、もといSound Horizonとなにぶん関わりの薄い人生を送ってきてしまった。そんな筆者に11月23日から2日間にわたり、神奈川・ぴあアリーナMMにて開催された【Revo's Halloween Party 2024】のレポート執筆依頼が届いたのが、今回の発端である。
しかも今回は、サンホラのメジャーデビュー20周年を記念した、大変重要な舞台だというじゃないか。急ぎ、今回のライブで主軸となるだろう、配信リリースされたばかりのBeyond Story Maxi『ハロウィンと朝の物語』を視聴するのはもちろん、主宰のRevoが“物語音楽”をコンセプトに、その時々でメンバーを召集する“幻想楽団”こそ、サンホラであること。ファンを“ローラン”、アルバム作品は“地平線”と呼称することなど、可能な限りの知識をかき集めた。過去のアルバム……ではなかった、地平線の予習もした。
大変勝手な申し出だが、本稿を執筆したのは手練れではない。ひょんなことからサンホラ沼に遭遇した、見習いローランである。熟練ローラン各位には何卒、“そういう新鮮な気持ちも懐かしいな”くらいの生暖かい目線から、このレポートを読み進めてもらえれば幸いだ。ちなみに先に申し上げておくと、ステージの詳細な振り返りは2日目公演の方に回しているため、今回はほぼ、筆者の感動を綴ったエッセイのようになってしまっている。
Revoの“おもてなし精神”こそ、ローランがサンホラを愛する理由?
冒頭に話を戻そう。筆者判定にはなるが、サンホラは早い話、“ほぼ確で沼”だった。冷静に考えて、メジャーデビュー20周年ということは、20年分の楽曲ストック(筆者にしてみれば新曲)があるということ。それだけのボリュームなら、ライブでなかなか披露されないレア曲が生まれ得たり、新たに学んだことだが、かつて幼かった歌い手が成長し、当時とは別の役柄を任されたりするのだろう。後者については、いかにも演劇のシステムに近しいものだと感じたが、つまりは長年培われたコンテクスト由来の“心の震え”を発生させられるのだと、瞬時に理解した。
開演前の段階から、主宰=Revoの盛大な配慮を感じられたところも大きい。今回は暦上、11月までは秋として、滑り込みで季節外れとはならないものの、その点についてRevo本人が公式サイトで事前にメッセージを公開しているのを拝見した。また今回はドレスコードとして“仮装”が設けられていたのだが、前述したRevoの想いに応えるべくか、会場には見渡す限り、時期的に慌てん坊すぎるサンタクロース、カボチャ、祭りの法被から調査兵団の姿まで、バラエティ豊かな仮装が目に飛び込んできた。さらにこれまた仮装用の更衣室が用意されていたのだから、ローラン想いなRevoのホスピタリティに脱帽させられる。
ライブ本編の話になかなか進まないが、まだある。開演前に読み上げられるアナウンスが、10分以上にわたる長尺だったことにも驚かされた。その内容は、前述の仮装に対する注意事項をはじめ、全席に用意されたリストバンド型ライトのテスト点灯式と、その場での不良品の交換対応をするというもの。Sプレミアムシートのローランには、特別にライトが2個も貸与されるというRevoの心遣いに、またひと笑いをさらわれる。
そこから、今回のテーマ曲といえる「Halloween ジャパネスク '24」の振り付け練習(と言いつつ、もはや即本番でも問題ないくらい、客席の動きが揃いすぎていた。この国、統一感がすごい)を挟んだ後、ライブ中の客席からの歓声などが、来年3月5日にフィジカルリリースされる『ハロウィンと朝の物語』に収録されるかもしれないと、しれっと新情報の告知までなされたのだ。
改めてにはなるが、ここまでにいくつのサプライズ、そして綿密さの先にあるおもてなし精神を見せつけられたのか。ここには、Revoやスタッフ陣のライブに懸ける並々ならぬ想いと、この時間を最大限に楽しみたいという純粋な気持ちを感じ取るしかなかった。というか、色々と優しすぎる。このあたりも含めて、沼にハマらずしてどうすべきなのだろうか?
サンホラ初体験の筆者から見た、圧倒的な情報量を叩き込まれる“物語音楽”の真髄
前談が長すぎたが、いよいよライブの模様に触れていこう。ライブ序盤は、長野・松本市にある浅間温泉を舞台に『ハロウィンと朝の物語』に添う形で物語を展開。Revoによく似た“ハロウィン関係者”、灰野優子が演じる温泉旅館の若女将、山崎杏による少女・皐月(めい)らがステージを賑わせたのだが、“ハロウィン関係者”が歌った開幕曲「物語」の段階で、新参者な筆者にはかなりの衝撃が走った。
同楽曲のメタルロックなサウンドは、重厚感や疾走感を備えたアニメ主題歌のようでありながら、舞台上の“ハロウィン関係者”たちが、まるで演劇のようにものすごい運動量をこなしている。かと思えば、今度は皐月の泣き声が聞こえてきたり、今度は和服を着た美女が登場したり。その勢いままに、いきなり椅子などの小道具が登場し、曲名通り「あずさ55号」の21時新宿発に乗車して、松本までぶっ飛ばされる様子を再現していく。
そろそろ言わせてほしい。いや、どんだけの情報量なんだ!? ともあれ筆者は『ハロウィンと朝の物語』を予習済みのため、なんとか付いていくことができたが、瞳と耳に飛び込んでくる情報の多さに、ミュージカルといえどよい意味で目が回りそうになる。
そもそも、“ハロウィン関係者”も現地の仙人のような見かけに反して、まさかのウサギの妖精(?)だったし、そんな“とんでも世界観”の物語かと思いきや、若女将が松本に向かった理由が、彼女の母親である女将の体調不良によるもので、“浅間でハロウィン”と銘打ち地方創生に尽力するなど、なんとも地に足がついたテーマだと知ったときのギャップたるや。「サンホラの世界観は、壮大だよ」。そんなことを事前に教えられてはいたものの、正直なところ想像以上だった。
詳細を割愛してしまい恐縮だが、それでいてハイクオリティなバンド演奏と、今回のために集められたボーカル陣による底知れぬ歌声の表現力の高さに、気づけば感服させられてしまっていた。本来であれば、この後に続く皐月の成長劇などにも触れたかった。が、若女将や皐月、彼女の友人であるキッズアンバサダーたちを含め、全員で踊った「Halloween ジャパネスク '24」が楽しすぎたというのが、まず第一に出てくる感想。それにまだ、2日目もある。初日の段階ではあくまで、サンホラの舞台から放たれる情報量の多さが、このパラグラフの1,000字弱から伝われば、ひとまずは本望だ。
黒沢ともよ、MIKIらが歴史ある名曲の数々を披露 中盤以降の17曲はすべて日替わりに
『ハロウィンと朝の物語』のフェーズを終えて、ライブ中盤以降は往年の名曲を連打する展開に。サンホラ作品に長きにわたり寄り添ってきたローランからしたら、いわばこの数年、数十年の想いが報われる“成仏案件”続きで、もう最高なパーティ以外の何物でもなかったと聞いている。冗談抜きで、全楽曲ともイントロが少し鳴っただけで、喜びと驚きがブレンドされた歓声が四方八方から上がっていたのだ。しかも驚くことに、両日とも全26曲を披露したなかで、ここから始まる18曲のうち、なんと17曲すべてが日替わりだったのが恐ろしい。“ハロウィン関係者”も語っていた通りで、なんともスタッフ泣かせである。
ということで、まずはゲストボーカル陣より、井坂泉月を据えた「Sacrifice」で神聖な空気が運ばれてくると、『進撃の巨人』に登場する始祖ユミルの想いを歌った「私が本当に欲しかったモノ」、カラフルな照明に照らされながら、子どもから大人までラインダンスを踊った「朝までハロウィン」などを挟みつつ、筆者個人としては灰野による「13文字の伝言」の表現に心を奪われた。優しい母親としての一面と、その奥に潜む生きることに疲れた本音……いわば“静”と“動”の心の動きを、トイピアノなど弾くか否かで表現するなど、歌声としても、舞台演出としても、緩急の大きさに圧倒されてしまった。
その後、この20年間を語る上では欠かせない、代表曲のひとつ「紅蓮の弓矢」が披露されたところで、またしても個人的だが、この日最も惹かれた演目が「硝子の棺で眠る姫君」。直前のMCでも、“ハロウィン関係者”や、歌唱を担当した黒沢ともよらが過去を懐かしんで目を細めていたが、“あの頃”の黒沢を知っているローランからすれば、幼子の成長を見守るような暖かい気持ちになっていたに違いない。
グリム童話の「白雪姫」を基にしたとされる同楽曲。黒沢演じる雪白姫が、前述のMCでも披露した「ぐーてんもるげん!」のかわいらしい挨拶を曲中に回収するなどハイライトはさまざまながら、特に見どころだったのが、MIKIが響かせた、雪白姫を葬る魔女の“高笑い”だ。
またしてもMCの話に戻るが、事前に“いくらでも聞かせます”と宣言があったことから曲中、最初の高笑いの時点で会場全体から拍手が巻き起こる。すると2度目の高笑いの際、今度は“お~”との感心混じりな歓声が上がるほどに。あの歓声にはきっと、この楽曲とともに歩んだ歴史など、色々な想いや意味が込められていたのだろう。というか高笑いをしたら拍手が巻き起こる構図が、よい意味でなかなか巡り合わないもの。全体を通して本楽曲はとにかくステージでの完成度が高く、披露後しばらく拍手が鳴り止まなかったのを覚えている。
Revoが“欲張り”に詰め込んだ20周年の宴ーー“幸せなカオス”こそ、この国のハロウィンだ
ライブ終盤。20年来のさまざまな楽曲を届ける、というのが今回のコンセプトだと明かされる時間があった。そんな記念すべき節目を盛大に祝うべく、“あれもこれも”と欲張りに詰め込んだ結果、ひとりあたり何着あるのかわからないほど、とんでもない回数の衣装変えをしていたり(楽曲ごとに衣装が変わるなんて本当に豪華だと思う)、その結果として、出演に時間制限がある子役たちが惜しくも終演までステージをともにできなかったりと、反省点があったというのはRevoの言葉。
だが、数多の楽曲をテーブルに並べ、新たな解釈を付け加える。ローラン各位も、ステージを観て、頭のなかで各々の解釈を育んだことだろう。その意味でいえば、こうした“幸せなカオス”こそ、この国独自の進化を遂げている、ハロウィンのテーマにこれ以上ないくらい相応しかったのではないだろうか?
最後には、サンホラの“国歌”こと「栄光の移動王国 -Glory Kingdom-」を会場全員で歌唱。なんとも圧巻の3時間半だった。改めてにはなるが、筆者はこんなにわかの分際で、ライブレポートを執筆してしまい、本当に恐縮の極みである。だが、今回のライブを機に、大学時代の友人から教えられ、遠くに見えていたはずの“サンホラの沼”を目の当たりにし、その水面にいま、片足を触れている状態。お笑い芸人の“押せ・押すな”の鉄板な流れではないが……あの、冗談抜きで落ちるから、いま私の背中を押さないでもらっていいですか!?
Text by 一条皓太
Photos by 江隈麗志、藤村聖奈
◎公演情報
【Revo's Halloween Party 2024】
2024年11月23日(土)神奈川・ぴあアリーナMM
OPEN 17:00 / START 18:00
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